好きなもの雑記

好きなものについて色々書きます。たまに愚痴る

イッセイミヤケの衝撃

 私は、洋服が嫌いだった。特に最近の肩にフリルが付いているような、ぼんやりした色合いの洋服が非常に苦手だった。

 身長は平均だが、典型的な骨格ストレートに所々骨格ナチュラルを混ぜたような体型に合う服を見つけられなかった。

思春期に入る頃から、その時々の流行りの洋服が似合わないうえにサイズによっては入らず、自分は何を着てもムダだと思っていた。

 

 そんな私が、唯一大好きだった服は着物であった。着方を工夫すれば、気になる肩幅や胸はどうにでもなる。なにより、着られなくなったり飽きがきたものは帯に仕立て変えたり、羽織りにしたりできる。それゆえ布をほとんど無限にリサイクルできる。

 周りからの視線も気にならない。似合うか似合わないかの前に、「着物を着ている」印象が強くて、普段から着る人がいない限りはそういったことが全く分からない。流行りも洋服と比べて激しく動くわけでもなく、色柄を選べば何歳になっても着られる物というところも大好きなポイントであった。

 

 そんな私を一年半ほど見ていた彼氏が、絶対に似合う服があると言い、私をイッセイミヤケに連れて行った。

彼はヨウジヤマモトが大好きで、モモンガのような真っ黒のパンツを良く履いている。そして、それがとても良く似合っている。

 もちろん私は似合うはずがないと思ったので、いやいや似合うかよ、今まで洋服が似合わなかったんだぞ、と言いながら店に押し込まれた。

 

 イッセイミヤケに押し込まれ、今まで触ったことのないタイプの洋服が並ぶ店内で怖気づいた。

服屋に行くこと自体が一年ぶりで、それまでたまに適当な洋服と自分好みの着物で済ませてきたのだから当たり前だ。

 彼がとても推してくる袴のようなパンツを試着することになり、仕方なしに試着室に入り試着をした。

 あれっ、と思った。腰回りがとてもスッキリしている。尻が目立たないどころか、体のラインに綺麗に沿って布が落ちる。

前の骨盤の骨の間を繋ぐように切り替えが入って、脚の付け根あたりまで止められたプリーツがもも上までをまっすぐにカバーして、その下は自然に任せて布が揺れる。

 思わず買うことを決めた。洋服が似合わないかもしれないという恐れが少し消えた。

上に着るものを選ぼうとなった時に、店員さんが黒の細かいプリーツの入った長袖を持ってきてくれた。

 

 平面で見た時に、襟が丸首だしとても似合わないのではと思いつつも、せっかくだし試着をしてみようと思って着てみた。

 衝撃的だった。プリーツがきつくかかっているから、自分の体のラインに自然に寄り添っている。締め付け感もない。縫い目もゴロゴロしない。動きやすい。

縫い目がないゆえに私を十数年間に幾度となく絶望させた肩の縫い目からのはみ出しがない。感動的だった。

 私がサイズを探したり痩せて服に合わせるのではなく、服が私の身体に合わせてくれた。

自動的にマイサイズになるため、スッキリした見た目になる。大抵の場合ぴったりしたものは苦しいが、この服は伸縮性があるため自在に布が動く。

 

 試着室から出て、店員さんが「袖が長かったり、長袖に飽きたらガイドラインに沿って着ると調整できます。ガイドライン以外で切ってもほつれないので微調整できますよ〜。」と言った時に、私はイッセイミヤケに恋に落ちた。

 これが一番の衝撃だった。洋服が、こんなふうに形を変えることはあまりない。長袖は長袖、半袖は半袖なのに、この服は長袖が半袖になれる。

個人的に、この融通の利き方は洋服ではあり得なかった。洋服は縫い目で全てが決まっていた。着物では着付け次第でいくらでも融通が利くのに。

 自分でハサミを入れて形が変わる。こんなに素晴らしい服があるだろうか。自分の身体に合わせてくれるうえに、自分で身体に合わせるアプローチも可能だなんて!

 

 自分で構造に手が入れられて、着られる物側が着る人に合わせる服が人に似合わないわけがない。

このブランドなら、イッセイミヤケなら、全部着られると確信した。

恐らく、比較的似合う似合わないはあるだろうが、他の洋服メーカーのように壊滅的にいけないものはないと思った。

 初めて、洋服を選ぶのが楽しくなった。洋服を好きになった。

 

 そのあとも、色々な店を見て回ったがイッセイミヤケを超えるものはなかった。

多分、私は一生イッセイミヤケを着るだろう。今までここまで刺さった服も、恋した服もない。

これからそうなる服が出てくるとも思えない。シンプルで普遍的な形を、ここまで人に寄り添う物にできる人もいないと思う。

 

 久しぶりに優しいデザインに出会って感激してしまった。とにかく、服と出会わせてくれた彼氏と試着をすすめてくれた店員さん、デザイナーさん、縫製さん、生地屋さんと三宅一生さんに感謝したいと思った。

 

 もう、これでいいやとか投げやりな気持ちで服を選ばない。それに、服が欲しかったらイッセイミヤケに行けばいい。